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CRAFT LETTER | クラフトレター

友禅染という繊細で情緒豊かな伝統技法。
「友禅染を通して日本の美しい心を伝える」というその思いは、絹織物に留まらないさらなる世界を求めて広がりを見せている。

DEC. 12

KYOTO,KYOTO

前略、究極なまでにこだわり抜く、手描友禅染の雅やかな色彩の世界に誘われたいアナタへ。

友禅染は、日本を代表する伝統的な染め物のひとつで、色彩豊かで絵画的な表現をする模様染めだが、京都で染められているものを京友禅という。刷毛や筆を用いて手で染料を生地に挿す技法を手描友禅染といい、その原型となる技法は江戸中期に確立された。元禄期に京都の祇園町に住んでいた扇絵師の宮崎友禅斎の描いた扇絵が小袖の模様に応用されて人気を博したことから、絵画的なデザインを糊防染で染める技法が友禅染と呼ばれるようになったという。
京都嵐山のほど近くにある池内友禅は、初代の父、母、そして二代目となる池内真宏さんが日々創作を重ねる友禅染の工房。1980年の創業以来、「彩り・潤い ・調和」をテーマに江戸時代から伝承されてきた手描友禅染の技術を用いて、着物や帯の制作を行なっている。

池内友禅では、京都でも数少ない、顧客から注文を受けて創作する、オーダーメイドの友禅染を行なっている。

「普段は、着物の誂えといいまして、お客様一人一人に合わせた着物を作らせていただいています。七五三や成人式の振袖とか、あとは普通の訪問着などです。こういう絵柄を染めて欲しいとか、こういう色で染めて欲しい、こういう場所に着て行くのでこんな着物を作れないかとか、お客様のいろいろな要望に対してこういうものが作れます、こんな図案はどうですかと、相談しながら作るのです。ゼロから完全にオーダーで作るというのは、お客様にとっても怖いので、ある程度こちらに雛形があるので、それを好みの配色にするというのが一番多いですね。以前作っていた着物を基にする場合は、地色を変えて欲しいとか、柄を小さくして欲しいとか、そういう注文も聞きながらやっていることが多いです」(池内氏)

池内真宏(Mahiro Ikeuchi)氏/1981年、京都市生まれ。2004年同志社大学商学部卒業。大学時代に友禅作家であった父親の池内路一氏の作品に感銘を受け、家業である手描友禅染の道に入ることを決める。在学中より、型絵染作家の澁谷和子氏からデザインを学ぶ。大学卒業と同時に父親に師事し、手描友禅染の技法を学ぶ。家業である着物作りと同時に、手描友禅染の伝統技法を革製品に展開するなど、友禅染の新しい価値の創造にも挑戦している。
池内真宏(Mahiro Ikeuchi)氏  / 1981年、京都市生まれ。2004年同志社大学商学部卒業。大学時代に友禅作家であった父親の池内路一氏の作品に感銘を受け、家業である手描友禅染の道に入ることを決める。在学中より、型絵染作家の澁谷和子氏からデザインを学ぶ。大学卒業と同時に父親に師事し、手描友禅染の技法を学ぶ。家業である着物作りと同時に、手描友禅染の伝統技法を革製品に展開するなど、友禅染の新しい価値の創造にも挑戦している。

日本の伝統的な染色技法の一つである、手描友禅染の技術を駆使する池内友禅


池内さんによれば、友禅染の特徴である繊細で華やかな模様染めを可能にしているのは、手描きによる彩色時に色と色の混合を防ぐために用いる糸目糊置防染という技法だという。これは、米糊やゴム糊を糸目筒(渋紙で作られた円錐型の筒に金具のノズルがついたもの)に流し込み、そのノズルの細い先から模様の輪郭に沿って糊を置いていく防染技法である。1mm以下の細い糊で防染していくことができるため、友禅染の多彩な表現を生み出している。糸目という言葉は、染め上がった後に糊を洗い落とすと、模様の輪郭に糸目状の白い線が現れることからきているという。

「糸目糊というのを使って模様の輪郭を防染して、色を染め分けて模様を表現していくのが手描友禅の基本的な技法です。その技法を使って着物とか帯とかを作っているのです。うちの場合、友禅だけではなくて、臈纈染めというのを併用して自分たちなりの表現を追究しているかたちです。」(池内氏)

青花液という、洗うと色の残らない液で下絵を描く。その線の上に米糊やゴム糊などの糸目糊を置き、色挿しをする時に色同士が混ざるのを防ぐ。
青花液という、洗うと色の残らない液で下絵を描く。その線の上に米糊やゴム糊などの糸目糊を置き、色挿しをする時に色同士が混ざるのを防ぐ。
手描友禅染と蝋纈染の技法が駆使された作品
手描友禅染と蝋纈染の技法が駆使された作品


池内さんは、作品を取り出して説明する。

「これが友禅と蝋纈の技法をまぜて作っているものですが、これやと花と白い輪郭線が手描友禅染なんです。葉っぱの部分の表現は蝋纈染になっているので、ミックスした表現というのがうちの特徴でもあるんです。加賀友禅になると、ほぼ友禅のみでやるので、こういう表現は基本的にないですね。京都は、わりとみなさん、いろんな方法をミックスしてやっているところが多いです」(池内氏)

蝋纈の技法を使うときには、堰出しという技法で行なうという。これは模様の境界に蝋を塗って、染料が流れ込まないように堰き止める方法だ。

「熱して溶かした液体状になった蝋を縁に置いた上で、その中をぼかし染めみたいな染料を置いていくのですが、そうするとこういうやわらかいぼかしやグラデーションがきれいに出るのです。全部手描きでやると、今の時代、手間とコストがかかり過ぎるんですが、蝋纈ですと、大きい面積をわりとそんなにコストかけずに埋められるというのがあって、うまく取り入れて表現すると、扱いやすい商品ができるんです」(池内氏)

その上で、手描友禅染の繊細で優美な色彩の世界を思うがままに操っている。

「もともとこういう模様染めというのは、インドなどの大陸の方から伝わってきたもので、それを日本人なりに表現しようとした時に糊を使った細かい技法が出てきたのだと思います。ですから、こういう繊細な表現というのは、海外にはあまりないのです。ホイップクリームを出すような、細い糊を出す糸目筒を日本人が考案して、模様を描き出したのが手描友禅染です。この技法は、絵画的な繊細な表現ができるというので、日本人の感性に合っていたのだと思います。蝋纈ですと、もっと線が太いので、こんなに繊細な表現にはならないんですね」(池内氏)

糸目糊置防染の技法だけで染められた小袖柄
糸目糊置防染の技法だけで染められた小袖柄

透明感のある四季を感じる色彩表現。それが池内友禅の真骨頂

池内さんのお話を伺っていると、色に関しての拘りは、並々ならぬものがあることがよく分かる。そもそもわれわれ一般人とは、見えている世界そのものが違うかのように。

「友禅やっている人は、色好きな人が多いですね。それぞれ自分の好きな色というものがあって、自分にとってはベストな色でも人から見たらそうでもないということもあります。人によって綺麗な色が違うので、その世界観は、みんな色々やと思います。それと、絹の発色はすごく綺麗なんで、僕らは、絹を扱えるという意味で、すごくやりがいがあるんです。綿は素朴で親しみやすい色が出るのですが、絹やと少しやわらかくて深い色が出せるので、僕は、絹は好きやなと思えるんです。それとまた、日本の絹が、海外の絹とはまた織り方とかが違うんで、染めた時の感じがいいんです。ですから、海外で織られた絹地を染めろといわれたら、たぶん嫌やと思います。日本のもんやからできますけど。日本の絹織物は、絹の光沢をわざと落としていたりするんです。テカテカになり過ぎないように、わざとシボを立たせたりして。そこがまたいいんです」(池内氏)

色挿し作業をするために、伸子と呼ばれる竹の細い棒で、生地をピンと伸ばす。「昔は家庭でも使われていたようで、年配のお客さんやと『これ、昔うちにもあったわ』と言われる方もいる」と竹内さん。友禅机は、四角い穴が空いていて、その下に電気コンロを置いて、熱で挿した染料を乾かしながら色挿しをする。
色挿し作業をするために、伸子と呼ばれる竹の細い棒で、生地をピンと伸ばす。「昔は家庭でも使われていたようで、年配のお客さんやと『これ、昔うちにもあったわ』と言われる方もいる」と竹内さん。友禅机は、四角い穴が空いていて、その下に電気コンロを置いて、熱で挿した染料を乾かしながら色挿しをする。
色挿しは、原則的には刷毛を使い、筆は細かな部分などを色挿しをする時に使う。「これは七五三の着物で、背景が黄色系の色になるので、仕上がりを想定しながら色を入れます。仕上がるまでどうなるかわからないので、怖いですよ」と池内さん。図案を池内さんが描き、配色を父の路一氏が行なうという共同作業も多い。
色挿しは、原則的には刷毛を使い、筆は細かな部分などを色挿しをする時に使う。「これは七五三の着物で、背景が黄色系の色になるので、仕上がりを想定しながら色を入れます。仕上がるまでどうなるかわからないので、怖いですよ」と池内さん。図案を池内さんが描き、配色を父の路一氏が行なうという共同作業も多い。
通常の着物だと13m程になるので、壁沿いに折り返して頭上を渡してテンションをかけている。
通常の着物だと13m程になるので、壁沿いに折り返して頭上を渡してテンションをかけている。


一般的に京友禅は、図案・下絵・糊置き・引染・色挿し・蒸し・水元・金彩・仕上げなど、細かな分業制によって産地が成り立っており、染匠と呼ばれるプロデューサーが顧客のオーダーを受けて、各工房の職人に仕事を受け渡しながら商品を完成さていく。「この業界では、職人が客と直接対話することはほとんどない」というのもそのためであるが、池内友禅はそのスタイルを持たず、「お客様に直接ご要望をお伺いし、特別な一品をつくっている」という。挿した色を定着させる蒸しや、糊を洗い流す水元など、自分のところでは出来ない工程は蒸し屋などに委託するが、色挿しだけでなく、地の色を置く引き染なども自らの工房で行なっている。

「父がもともと1970年に愛媛の松山から京都に出てきて、京友禅作家の木原生長先生の元で10年間修行して、独立してこの工房を始めました。もともと父は日本画などの絵を描く仕事をしたかったのですが、愛媛県ではそういう仕事が全然なくて、京都に来たら何かあるかなと、松山南高校デザイン学科を卒業して出て来たそうです。そして、たまたま出会ったのが友禅の仕事で、そこから50年ですね。当時の京友禅の環境は、今とは全然違うんで、仕事はたくさんあったんですけど、屋根裏みたいなところで十人ぐらいで寝泊まりして修行したそうです」(池内氏)

布地全体に地色を染めるのが引染で、刷毛で染料を均一に染めていく。
布地全体に地色を染めるのが引染で、刷毛で染料を均一に染めていく。
多くの友禅屋がそうであるように、池内友禅も京都の民家を工房にしているが、生地が長いため、ある程度の奥行きが必要になる。「これがなかったらマンションの一室とかでもできるんですが(笑)」(池内氏)
多くの友禅屋がそうであるように、池内友禅も京都の民家を工房にしているが、生地が長いため、ある程度の奥行きが必要になる。「これがなかったらマンションの一室とかでもできるんですが(笑)」(池内氏)

父、池内路一氏は、1980年に独立以降、大手呉服問屋の専属作家として約20年間活動。2002年、急速な呉服業界の衰退を危惧し、個人のお客様を対象としたお誂えをはじめた、とある。その子、真広氏は、どのような志で友禅作家を目指したのか。

「僕は、中学から同志社でしたが、実は、大学出るくらいまで親父がどんな仕事をしているかも分からなかったくらいなんです。たまたまその頃、初めて父の作品展を見て、こういう世界があるんやと感動したことがあって、その美しさに惹かれました。大学在学中から絵の勉強はしていて、卒業してからは父に師事して教えてもらいました。父の仕事は、日本の四季の草花とか、風景とか、そういうものを昔の伝統的な図案にはあまり頼らずに、自分で考案して創作し、情緒的な表現をしているのがすごいところ。最初は、練習したら自分もできるもんやと思ってたんですが、作家としての芸術性みたいなところまでは、真似ができない。同じことやったら、コピーになっちゃうし、技術は継承していけるんですけど、感性というのは世代、世代で、全く違いますから」(池内氏)

その上で池内さんは、二代目として、独自の美の境地を開拓しようとしている。

「父の仕事は、父の代で終わりだと思っています。中の精神みたいなものは僕もある程度継いでいけると思うのですが、表現そのものは個人独特のもんなんで。展覧会とかで父と一緒に出した時に、どっちが作ったかわからんような作品は絶対やったらあかんというのがあって、それは自分なりに考えています。僕はどっちかというと、古い図案を現代的にアレンジしたデザインを作ってやっています。そして、色はまた感覚が違うので、そのこだわりです。色彩は難しいですが、あんまり理屈では考えずに、とにかく、綺麗な色をたくさん見て、感覚的に合わせていく感じです。親子で共通しているのは、彩りと、調和と、潤い、その三つがテーマなんです。彩りとは綺麗さ。調和とは、色と色が喧嘩しないこと。潤いとは、見た人の心にちょっとした温かいものが残るとか、優しい気持ちになるとか、そういうことを目指しています」(池内氏)

日本の伝統工芸である友禅染の新しい可能性を拓く技術の創出

そして2018年から池内さんは、着物以外の分野での可能性を模索して新しいブランド「SOMEA」をつくり、友禅に使われる技術や素材を活かして暮らしに身近な皮革アイテムに落とし込んでいる。

「長財布は、着物に使われる技術や素材はそのままで、普段使える小物を作るということで、最初は絹地にやっていたんです。柄の評判は非常に良かったのですが、お客様から絹地は使うのに抵抗があるとか、汚れやすいという声があって、それはなんとかせなあかんということで、革を染められるともうちょっと面白くなるんかなと始めました。手描友禅とは、ちょっと異なる技法ですが、手描友禅の技法とミックスしています。技術的に言えない部分もあるんですけど、友禅に使われる染料を革用に自分でアレンジして、革自体も染色に向いた皮をタンナーさんと一から作っています。革は染め直しもできるんで、僕自身とても面白い素材だと思ってます」(池内氏)

そこにも、友禅職人としてのこだわりとプライドが、色彩の美学にいかんなく発揮されている。

「一般の皮革製品のプリントは顔料なんで、表面がもっとべたっとした感じになるのですが、これは染料で染めているんで、皮の風合いがいい具合に残っていて、比べるとだいぶ違うと思うんです。顔料でやると色が良くないんで、最初からやりたくないんです。やっぱり僕ら普段から色を扱うことが好きでこういう仕事しているんで、より綺麗な色とか、自分の納得する色を染められるということでやっているんで、そこをやっぱり追究していきたい」(池内氏)

立湧という日本の伝統的な柄をアレンジして革に染めるため、自分の納得がいくまで色出しを繰り返す。「白めの革の上から染めるとこういう色が出せて、自分の好きな色に近づいてくると、嬉しくなるんです」(池内氏)
立湧という日本の伝統的な柄をアレンジして革に染めるため、自分の納得がいくまで色出しを繰り返す。「白めの革の上から染めるとこういう色が出せて、自分の好きな色に近づいてくると、嬉しくなるんです」(池内氏)
池内友禅の工房に設えられたギャラリー
池内友禅の工房に設えられたギャラリー


「革になかなか染料が入らなくて、かなり迷走した時期もあったんです。うまくいかずに、かなりしんどかったですけど、着物やっている時と同じ感覚でやれるから楽しいんですよ」という池内さん。
「絹をできる職人さんはいっぱいいてはるけど、革は僕しかいてない。これは、たまたま絹でやっていた世界観をレザーでも再現しようとしてやっていることなんですが、技術的にはいろんなことが出来ることがわかったので、これからまたさらに可能性が広がったかなと思っています」と締めくくった。


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筆者:塩川浩司

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