工芸とつながる。工芸でつながる。

CRAFT LETTER | クラフトレター

CRAFT LETTER 刊行の辞

MAR. 22

日本国内に点在するものづくりの文化は、陶器、磁器、漆器、布、染め物、木工品、金工品等……私たちは何世代にもわたり、それらを「あたりまえ」のように使って、ものづくりの文化として次の世代に伝えてきました。脈々と続いているものづくりの文化には、日本各地の文化や風土の特性が随所に現れています。いずれも、作り手が身を削り、「あたりまえ」のように魂を注ぎ込んで作り続けてきた長い歴史があり、作り手の命が尽きても、文化や技術はその時代の中でなお生き続け、日本という国の中で代々受け継がれてきました。

しかし、近年、それら日本各地で伝えられてきた文化や技術が、誰にも気づかれずにひっそりと姿を消しています。その要因の多くは、社会、自然、経済的な理由に集約されると考えられます。

一番身近な社会的な要因においては、2018年国民生活基礎調査によると「夫婦のみ」、「夫婦と未婚の子」、「ひとり親と未婚の子」からなる核家族の割合が、全体の約60%を占めており、祖父母世代からの文化継承機会が年々減っています。また、総務省の2017年労働力調査による労働力人口総数に占める女性割合は43.7%と年々増加傾向にあり、専業主婦が減り、時間に追われる日々の中で便利なコンビニエンスストアや大型ショッピングモールでの惣菜等の活用が広がり、食文化等における伝承機会も減っています。

温暖化をはじめとした自然環境の変化も、日本各地にあるものづくり文化の景色を変えています。経済産業省が指定している伝統的工芸品は、2021年3月1日時点で235品目あります。指定されている伝統的工芸品のすべてに、地域に根付く自然素材が使われています。山口県の萩焼には、萩の地域にある“土”が使われ、新潟県の鋳鋼産地で使用されている銅は、弥彦山から採掘され使われてきました。このように日本全国にあるものづくり産地は、それぞれの地域にある自然的な豊かさである、土、木、金属、砂等の自然素材が必ず使用されています。そのため、日本のものづくり文化を残していくということは、技術を持つ作り手やその使い手だけでなく、地域の自然環境をしっかりと次の世代に繋げていくことと同義になります。

産業界においては、資本主義社会による利益主導の産業構造が限界にきており、迅速かつ大きな経済ルールの変革が求められています。また、地方自治体も国からの地方交付税頼りの自治体行政の体制維持が難しくなっている昨今、明治の産業革命からの経済モデルがすでに限界を期しているというサインであり、令和のこの時代においてあらためて伝統的なものづくり文化を見直すべきタイミングと考えています。

これらの変化により、日本各地にある「あたりまえ」の文化や風土は、いま私たちの日常生活において感じることが難しくなり、あえて自ら探しにいかないと出会えないものに変わりつつあります。

クラフトレターの使命は、日本で「あたりまえ」とされてきた文化や技術を継承するきっかけとなる作り手と人との出会いを新たに生み出す媒介となり、日本各地に点在している工芸技術と自然の豊かさという従来の資本主義に基づく経済価値とは違う軸にある、文化資本主義による付加価値を日本国内だけでなく世界中に発信していくことにあります。2021年というこの時代だからこそ可能な新たな経済ルールを創造し、工芸産地の職人(人)と原材料(自然)の持続可能なつながりの構築を目指します。

また、「あたりまえ」にありつづけたものが、時代に合わせて形を変え、いまの世界をワクワクするものに変えていく……こんな驚きと喜びを創造していきます。

 

最後に、クラフトレターで取り扱うものづくり産地は、2018年7月31日に日本政策投資銀行が発行する「地域伝統ものづくり産業の活性化調査」において分類されている下記の以下の範囲に基づくものとします。伝統的工芸品は、「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」(伝産法。1974年)で「一定の地域で主として伝統的な技術又は技法等を用いて製造される」ものと定義され、①工芸品のうち主として日常生活で使われるもの、②製造過程の主要部分が手作り、③伝統的技術または技法によって製造、④伝統的に使用されてきた原材料、⑤一定の地域で産地を形成の要件に照らし、工芸品の名から指定され、2020年7月1日時点において全国で235品目が指定されています。上記と合わせて、「古くから伝承されてきた素材・技法・意匠などを用いて製造された美術品、また日用品」である伝統工芸品および、伝統工芸をはじめとした地域の歴史・伝統の素材・技法・意匠などに立脚した伝統ものづくり産地を包括するものとします。