1300年以上受け継がれる「美濃焼」の文化を継承しながら、新たな挑戦へ。業界の革命児が大切にした「着眼点」とは

前略、長年受け継がれる伝統工芸の世界に、変革を起こしたいアナタへ

普段何気なく食卓やお店で使っている器たち。


実はその多くは「美濃焼」だということをご存知でしょうか。

 

長い歴史と伝統をもつ「美濃焼」は、食器類の生産量が全国シェアの60%を占めており、時代の変化や人々の好みに合わせて、新しく釉薬を開発。技術を築いて様々な姿形、色彩の焼物を誕生させてきたことから、美濃焼は「このような焼物」とひとつを示さず、様々な技法を持つといわれています。

 

私たちの日常生活に知らないうちに溶け込んでいる焼物「美濃焼」。

 

今回取材をしたのは、そんな1300年以上の伝統を誇る「美濃焼」の産地・岐阜県多治見市で、伝統を守りながらも、現代のニーズにマッチしたユニークな酒器やグラス、食器を多数展開している『丸モ高木陶器』の5代目・高木 正治氏。

 

美濃焼に限らず、高木氏が手がけた “温度” をデザインに取り入れ、冷たい飲み物を注ぐと盃の底に満開の桜が姿を現す「冷感桜シリーズ」は、メディアやネットでも大きな話題に。

伝統と最新技術を融合し、温度をデザインした「冷感桜シリーズ」。写真右>常温時のグラス、写真左:冷たい飲み物を注いだグラス。グラス以外に平盃や、「冷感桜」以外に「冷感紅葉」などもある。 

日常に溶け込む器をつくりながらも、固定概念に捉われず、新しい商品展開を繰り広げる革命家・高木氏への取材を通じて見えてきた、高木氏が大事にしている「着眼点」をまとめました。

 

高木 正治(Masaharu Takagi)氏 株式会社丸モ高木陶器 代表取締役社長 / 和食文化がユネスコ世界遺産に登録された前年の2012年より、自ら海外に赴き、現地のレストランにて営業活動を開始。岐阜県にて生まれ育ち、名産「美濃焼」の魅力を世界中に広めるべく、日本国内外を飛び回る。そのほか、海外の食イベントなどにも積極的に参加し、食と絡めたアプローチで「美濃焼」の認知度を着実に高めている。

 

「相手のニーズ」と「自分ができること」が重なる部分に、全力で「アクションする」

 

『丸モ高木陶器』の工房に訪れ、まず圧倒されたのは、工房に併設されている国内最大級の業務用食器ギャラリーの広さだった。丸モ高木陶器でつくられている食器だけでなく、日本全国の様々な食器を取り揃え、お客様のニーズに応えているという高木氏のところには、既存のお客様はもちろん、紹介伝えにも高木氏を頼り、多くのお客様が足を運ぶ。

 

「高木家に長男で生まれて、僕で5代目になることは最初からわかっていたことなので、この業界に入ることに抵抗感はありませんでした。今考えると、母親が旅館の娘だったということもあって、料理も好きでしたが、料理と同じくらい器も大事ということを知っていたような気がします」(高木氏)

 

大学卒業と同時に、多くの経験を積もうと、洋食器メーカーで3年働いたという高木氏。家業を継ぐことに違和感はないものの、当時はまだそれほど器に興味がなかったという高木氏は、3年間の下積み時代の間に楽しみを見つけ出す。

 

「最初はとにかく営業が楽しかったんです。大手飲食チェーンに営業して、自社の器を取り扱ってもらえるような、オセロをどんどんひっくり返して勝っていくような感覚が面白くて。JALやANAの仕事にも携わりました。日本の翼の中で使ってもらえることに誇りを感じていましたね」(高木氏)

 

『丸モ高木陶器』に戻ってからも、営業をゴリゴリ進めていたという高木氏だが、年齢を重ねるごとに、営業に面白みを感じなくなっていったという。

 

「大手チェーン店に向けた大量の器を扱うよりも、安らぎを与えるような空間で使ってもらえるような器を扱いたいと思うようになったんです」(高木氏)

 

リゾートテラスやハイクラスホテルなどで、ゆったりと食事を楽しむ時間の中に、器として彩りを添えたいと思い始めた高木氏。営業先を変えてアタックを開始する最中、自社の食器が徐々に海外で使われ始めていることに目をつけた。

 

「2013年12月に和食がユネスコ無形文化遺産に認定される前から、海外に少しずつ注目されていることはわかっていましたが、それが最終的にどんな人たちに購入されているのかはわかりませんでした。だからこそ、自分の目で見たくて、当時から仲の良かった貿易商者の社長さんと、器がよく出ていた香港に行ったんです」(高木氏)

 

 

何もかもが初めての中で、とにかく訪れた香港。展示会に足を運ぶことはもちろん、自社のブースも構えるほか、現地のレストランにも営業活動をしていったという。国内よりも早く、海外でのイベント出店を行い始めた高木氏。そんな高木氏の行動力が、1つの大きな出会いを引き寄せる。

 

「北京のイベントで出店をしていた時に、1人の男性が僕のブースに立ち寄ってくれて、“丸モ高木陶器を知っている” と声をかけてくれたんですよ。驚きました。話してみると、彼は “なだ万” *1 出身の料理人でした。“自分の仕事場にくるか?” と誘ってくれたので、その場で返事をして、彼の職場に連れていってもらったら、彼は日本大使館の公邸料理人だったんです」(高木氏)

 

「公邸内を案内してもらい、彼自身が今やっていることを聞くと、国のトップの食事の面倒をみているということの重大さに感銘を受けました。そして同時に、器は、国の予算で購入されているだけであり、料理人が料理の旨味を引き出せるような器を求めていることを知りました」(高木氏)

 

寒い時期に、あったかい料理をどう提供するか? 冷たい料理をどう魅せるか? 料理の特性や時期によって、器にも工夫の余地があるにも関わらず、当時はそこまでを大事にはされていなかったという。

 

「帰国後、すぐに霞ヶ関の外務省に行き、どうやったら『丸モ高木陶器』の食器が日本大使館で使ってもらえるかを調べ、手続きをとりました。そこから国際郵便で、世界各国の日本大使館に自社のパンフレットを送ってコンタクトをとって、結果8つの大使館に器を納められることになったんです」(高木氏)

 

スペシャリストと呼ばれるトップクラスの料理人たちと出会い、リスペクトをする中で、自分自身ができることは「器」だと改めて認識し、当時も今も人一倍アクションをし続けている高木氏。

 

「日本語が通じて、当たり前に仕事ができる職場って、恵まれているんですよ。食材がこない、料理人も揃わない、でも大事な宴会を成功させなくてはならない。そんな環境で公邸料理人たちは戦っている。彼らをみると、包丁という刀を持った侍なんだって思いますよ。だからこそ、僕は僕のできることで、彼らに貢献したいと思っています」(高木氏)

 

常に「代弁者」でいるための努力を、自分にも相手にも惜しまない

 

大量消費だけではなく、食事のひと時を豊かにするひとつの要素としての器にこだわり始めた高木氏は、「自分の力でスタートしたわけじゃない」と力強く話す。

 

「器づくりをはじめ、僕自身が全てを担える訳ではないからこそ、いろんな人たちに助けてもらっています。そしてだからこそ、僕はお客さんの目の前に立つ者として、代弁者になれるかどうかをすごく大切にしているんです」(高木氏)

 

作り方や器の良さだけでなく、どんなシーンで使うとさらに良くなるのか、新しい器と既存の器にはどんな違いがあるのか、様々な代弁者になることを心がけている高木氏は、普段からお客様と話を重ね、相手の視点に立つことを忘れない。

 

美濃焼の形を形成する上で重要な「石膏型」。圧力により泥を石膏型に注入して成型を行う。真ん丸はもちろん、四角い器や仕切りのある器など様々な形状を作ることが可能。『丸モ高木陶器』では、“食” 器を取り扱っていることから、物を散乱させるのではなく、しっかりと整理整頓をするというのが代々からの教え。

 

さらに驚かされたは、高木氏は自らのスタンスを大切にするだけでなく、次の世代への教育・投資も怠らないことだ。

 

「6年前に、都内のビルの中に岐阜代表として出店したことがありました。店頭に立つスタッフは、別の会社さんが採用したアルバイトさんで、日本の伝統工芸が好きな人もいれば、中には全く興味のないという人もいて。あの時は、作り方を知らなくては、お客様に説明もできないので、全アルバイトさんを対象に、研修をやりました。その中に1人とても飲み込みが早い人がいてね。“自分がお客さんに伝える言葉を間違えてしまったら、せっかく作ってくれた職人さんに申し訳ない” って言ってて、僕自身とても大事なことだと思いました」(高木氏)

 

「代弁者って、口だけ上手ければいいわけじゃなくて、物事の “背景” と “魅力” の両方の要素を伝えられなくては、相手には伝わらない」と話す高木氏が、代弁者として、お客様に器の世界を伝えている裏側で、器をつくり、高木氏や『丸モ高木陶器』を支えている職人さん2名にも今回少しお話をお伺いすることができた。

 

尾崎 晴菜(Haruna Ozaki)氏 株式会社丸モ高木陶器 絵付師 / 2019年に『丸モ高木陶器』へ入社。これまで絵付師とは全く違う世界で仕事をしていたが、ものづくりやデザインに興味があり、『丸モ高木陶器』へ26歳で入社を決意。3ヶ月間の試用期間を経て、現在は簡単な絵付を一人で行いながら、日々先輩から技術を学んでいる。

 

1日で10〜100個以上の美濃焼に1つ1つ丁寧に絵付をしている尾崎氏。同じ色・柄でこれだけの数を手作業で絵付していることに驚きながら話を伺うと、とびきりの笑顔で思わぬ返答をもらった。

 

「大変そうだと思われるかもしれないのですが、全然そんなことはなくて、楽しんです。難しいものもありますが、慣れてくればできますし、毎日勉強して、少しずつ任せてもらえる柄が増えるのも嬉しいです」(尾崎氏)

 

毎日の勉強で書いているという「絵付ノート」は、1年ですでに5冊を超えており、中には写真と丁寧な言葉で絵付方法の明記が。楽しいだけではない、努力がこれだけでも伝わる。

 

安藤 嘉宏(Yoshihiro Ando)氏 株式会社丸モ高木陶器 絵付師 / 30年以上、絵付師として活動し、丸モ高木陶器でも20年以上の経験をもつ。尾崎さんの先輩であり、丸モ高木陶器では安藤さんと尾崎さんの2名が絵付師として活動している。

 

取材時に安藤氏が手がけられていた器の柄は、安藤氏以外の人が描くと絵柄に差異が生じてしまうため、長年、安藤氏しか描いてないんだそう。筆の入れ方、筆運びのスピード、力加減、全てが絵柄に反映されてしまうため、ベテランでも同じ柄を再現するのは難しく、伝統を継承しつつも、自らも現場の最前線でお客様の期待に応え続けている。

 

「柄をつけている絵の具は、時間が経てばダレたりと変化しますから、自分自身でも同じ柄を再現し続けるのは難しいんですよ。この世界には正解がありませんから、自分に合った方法を自分で考えて見つけるしかないんです。だから若い子には、僕と技術の比べるのではなく、とにかく常に自分の100%で一生懸命やっていけば、気付いた時にはちゃんと技術がついてくると伝えています。実は、ちょっと技術がある人より尾崎さんのように未経験の人の方が素直に技術を吸収できるので、成長が早かったりするんですよ」(安藤氏)

 

お客様の要望に対して、全力で応えてくれる仲間たちの存在が、高木氏が前進していく上で大きな原動力になっていることは、言うまでもないだろう。

 

温度をデザインに、美味しいをデザインに。シュチュエーションの「固定概念を外す」

 

冒頭でもお伝えしたように高木氏は、“温度” をデザインに取り入れた器でも大きな注目を得ている。そもそも高木氏は、なぜ “温度” に着目したのだろうか。

 

「焼物業界は、1300年以上前の時代から変わらないんですよ。土をこねて、焼く。個性を出すポイントは、大きさ・強度・配色くらい。その中に “熱さ” と “冷たさ” を可視化できたら器のイノベーションが起こると思って、とにかくアクションしました」(高木氏)

 

『丸モ高木陶器』では、「冷感シリーズ」だけでなく「温感シリーズ」も多数展開しており、45度以上の飲料を入れると、絵柄が浮かび上がってくる。

 

「グラスやコップだけでなく、急須や料理で提供する器にもこの技術を使っていて、目で見る仕掛けで陶器の良さをわかってもらおうと、つくりはじめました」(高木氏)

 

急須で入れるお茶は1分程蒸らした方が美味しいとはわかりつつ、1分をわざわざ測るのは面倒だから、なんとなくで注いでしまう。お客様に最高の状態で食べて欲しいけれど、目の前に提供してから少し待っていただくのは、気が引ける。そんな状態を、熱湯を注いでから1分で色が変わるこの器なら、楽しく解消してしまう。そんな器からの提案が合ってもいいのではないかと高木氏は楽しそうに話す。

 

「例えば、想像してみてください。鉄板焼き屋さんに行って、お料理を熱いお皿に乗せて、アナタの目の前で提供してくれたとしましょう。一見、ただの普通のお皿なのに、お皿が冷めてくると、お皿に青の海が浮かび上がってくる。とっても素敵だと思いませんか? ここまでの発想をもつ料理人さんは少ないけれど、こういう楽しみ方もあると思うんです」(高木氏)

 

すでに自分のアイデアを形にする行動を起こしている高木氏だが、そのアイデアは留まることを知らない。

 

「熱燗用の平盃よりも、もっと熱いものに効果的なお寿司屋さんの湯のみとか、鍋とかにも応用できるなと思っています。あとは、この技術をどんなシチュエーションで使うかだと思っていて、例えば年配の方が火傷をする原因の多くは “熱さが目に見えないから” なんですよね。だから、介護の現場でもこの技術が利用できるのではないかと思っていて、ここからは、外部の人たちの知識も合流させながら、中長期的に何が生み出せるのかを考えていきたいと思っています」(高木氏)

 

 

 

固定概念に捉われず、周りに支えられながら、自らの発想を信じて、常にアクションを起こし続ける高木氏。1300年以上、変わらなかった焼物の世界に、新たな風穴を通した彼は、次は一体どんなことを成し遂げるのだろうか。

 

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