かつて東北でも展開された民藝運動に想いを馳せて、用の美意識から生まれるアーツ&クラフツとは。

前略、最上地方の銘木、金山杉の木目の美しさが織りなす、唯一無二の造形模様に触れたいあなたへ。

山形県金山町は、新庄市から北上することクルマで30分程の山あいに位置する秋田県と県境を接する町。江戸時代に羽州街道の宿場町として栄えた歴史ある街並みが美しく、白壁を用いた金山住宅が見もの。町域の4分の3を占める森林からの金山杉が、板張りの景観を構成している。新庄藩時代から植林が行われてきたという銘木・金山杉を用いて、木目の美の世界を独自に追究しているのが、木工作家の岸欽一さんだ。

 

「鯉の清流作り」の器

 

「いまは創作というよりは、注文をこなすだけで精一杯」と笑う岸さん。岸さんが作る「金山杉の小口寄せ細工」は、木目の組み合わせ方で、その美しさのバリエーションが無限に展開される木工用品で、本来は廃棄されるはずの端材を使ったエコロジカルな作品である。木目の紋様の美しさもさることながら、その造形も工夫と遊び心に溢れている。

 

額縁から始まったものづくり

 

「金山では、昔から鯉を食べる食文化があって、これは鯉の刺身を盛り付けるために作った器です。上の蓋も折敷としてそのまま使えますし、スタッキングもできます。イメージは瓦。下に水を張って、そこにドライアイスを入れて出せば粋な演出ができます。名付けて、鯉の清流作り!(笑)」と、実に楽しそうに自らが作った作品を紹介してくれる。

 

そんな木工作家の岸さんであるが、もともとは家具屋さんだった。

 

「金山は、大工が多い地域ですが、木工職人というのは、特に多いわけではなかったです。ただ、うちは代々指物師で、親父の代で家具屋になりました。うちの姉が継いで、その後私が継いだのですが、近年結婚式も少なくなって儲け口の婚礼箪笥も売れなくなった。嫁さんに行くときに見栄を張らなくなったのですね(笑)」

 

指物師の血を引き、手先が器用で、創作意欲が旺盛な岸さんが最初に手がけたのは額縁だったという。

 

「既製品を売るのではなく、もとに戻ってものづくりから始めようと思いました。木工の師匠はいなくて、全て独学です。額縁といっても単に45度でくっつければいいのかというと、そうはいかないんです。特に杉の無垢材は、時間が経つと隙間が空いていくので、それを空かないようにするにはかなりの技術がいるのです。貼り方とか、微妙な角度とか。それを何度も失敗して、自分なりに技術を習得したのです」(岸氏)

 

岸欽一(Kinichi Kishi)氏「岸家具店きごころ工房」/1953年山形県金山町に生まれる。高等専門学校卒業後、船に乗って浚渫作業の仕事をしていたが、姉の結婚を機に岸家具店を継ぐ。しばらくは既製品の家具を販売していたが、金山杉を素材にした額縁を作ったことをきっかけに、「金山杉の小口寄せ細工」を創作するようになった。

 

額縁一個作れるようになると、その技術をもとに様々な用品や家具が創作可能となったという。そして、一つ作品を作るごとにその技術が向上し、ものづくりの意識がさらに難易度の高い作品へと向かわせた。

 

「杉の額縁はそれまでなかったので、玄関先に飾っておいたら、けっこう観光客のお客さんがお店に入ってくるんですよ。こんな田舎でも面白いものを作れば、興味ある人が買っていくんじゃないかと気づいたのです。じゃあ他のものもいけると、注文次第で、テーブルとかベンチとか、大きなものにも挑戦していったのです」(岸氏)

 

そんな折り、岸さんが以前から気になっていたのが、使わなくなった木の端材が、山ほど積みあがっている光景だったという。

 

「何とか使い道がないかなって、その端材を見ていたら、小口って綺麗だねって気づいたんです。それで、テープルを一週間以上かかって作ってみました。小口をきれいに平らにするには、けっこう時間がかかるのですが、作ってみたら評判いいんです。お客さんにすぐに売れるのはコースター。いっぱい注文があったときに、一斉に並べてみたらすごく綺麗で、大きなプレートにしたら面白いんじゃないって。そうやって作品が増えていったのです」(岸氏)

 

額縁制作等で出た金山杉の端材(後方)を適度な長さにカットする。

 

素材を接着剤で貼りあわせて万力で締める。「機械プレスではできません。やっぱり手の感覚をたよりに、手で締めないとうまくいきません」。乾燥後、平らに仕上げてカットすると、断面が見事な模様になって現れる。

 

 

祖父が指物師で、父も林業に従事していたという岸さん。子どもの頃から木に愛情を注いできた岸さんは、その扱い方も生かし方も充分に心得ている。

 

金山杉の特徴を生かしたものづくり

 

「金山杉の特徴は、ピンクっぽい赤の色が綺麗なことです。なかには、黒っぽいのもで出てきますが、それはそれで用途があるのです。小口細工は複雑ですから、いろんな色が入って面白いですね。苦労はね、木の収縮がとっても激しいんですよ。小口は特に縦方向には縮まらない。横の収縮が大きいので、水分量を見たり、木固めをほどこしたり、それでも暴れることもあるので、いろいろ工夫しています。面白いのは、同じものがないところ。この模様もう一枚作ってと言われても無理なんです、自然のものですから」

 

人気商品のまな板。濡らすと、杉の香りが出て、乾くとすっと元にもどる。ポリのまな板は水を弾いて滑るが、天然木は滑らない。使った人は、必ずリピーターになるという。 

 

店内に置いてあった、小口細工の照明「木霊のあかり」が目にとまった。

 

「これ、偶然にできたんです。プレートを作る時に、表面の仕上げを外注に出したら、削り過ぎて返ってきた。これじゃあ使い道ないなと思いながら、明かりにかざしてみたら光が通ることがわかって、これは大発見で、小口だから光が通るんです。杉の中を通ると、青の光は消えて、オレンジ色になって、いろんな模様が作れます」(岸氏)

 

木霊のあかり

 

 

これから、どんなものが作りたいか尋ねてみた。

 

「できればねひとつ大きい和風の茶箪笥、あれを全部金山杉で作ってみたいね。いまの忙しい注文状態だったら無理だけど、取り掛かったら掛かりっぱなしで、暇を見て作ることはできないんで。図面書かないんですよ、私。書くとそれに捕らわれちゃうから。大雑把な寸法だけは出すけど、あとはバランスを見ながら、作りながら考えていくんです」(岸氏)

 

そう語る岸さんの眼差しに、東北の自由な職人気質の一端を見た気がした。

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